インヘルノは、才色兼備、冷静沈着の姉と尖ったナイフのような弟の、正真正銘血のつながりがある二人の恋愛が描かれています。近親間の恋愛はオーソドックスな主題でもありながら、マツモトトモさんの筆によって、今までに読んだことがないような息苦しさと清廉さが溢れていました。
派手さはないのに、圧倒的な印象と余韻を残すインヘルノについてレビューします。
インヘルノについて
作者:マツモトトモ
巻数:全5巻
簡単なあらすじ
両親の離婚によって離れて暮らすことになった更(サラ)と轟(ゴウ)。しかし離婚した両親が復縁し、再婚したことで、4年ぶりに再び一緒に暮らすようになります。
更にとっては、別れた時の記憶のままの「小さくて可愛い轟ちゃん」でしたが、再会した轟は、長身になり、気性の荒い思春期の男に変わっていました。再会当初、轟は更に対して、心を開かず、むしろ避けようとします。
しかしそれは轟が更のことを密かに想っていたからでした。同じように、冷静で誰にも執着しない更にとっても、轟だけが気にかかる存在でした。
そんな二人の間には、徐々に濃密な空気が漂うようになります。
恋愛模様が見どころ
近親恋愛の場合、誰にもバレてはいけない、親を裏切っている罪悪感という2点に主軸が置かれています。
しかしインヘルノの場合、確かに隠してはいるのですが、罪悪感によるツラさよりも未来に繋がらないのに、縁を切ることができないことへの苦しさが心情の中心となっています。実際、二人は物語の早い段階、1巻で通じ合うのですが、恋愛関係になれてハッピーという雰囲気にはなりません。
しかも更の場合、告白してきた生徒会の後輩古庄と付き合い始めます。轟もまた、彼女ではないものの、仲良くしている豊子には、年相応の無邪気な笑顔を見せます。正直、脇の二人とうまくいけば良いのにと、何度も思いました。
というのも、更と轟の関係が危う過ぎて、むしろそれぞれにとってライバルにあたる相手といる方が安心して読めるのです。もちろん、そのように肩を持ってしまうのも、古庄も豊子も魅力的に描かれているからです。
物語を通して感じたのは、轟の突発的な暴力や、更をめぐる古庄の轟との心理的攻防戦は激しいのにも関わらず、登場人物たちの温度がどこか低いということです。喩えるなら、真夏でセミがわんわん鳴いているのに、世界がとても静かに感じるような、そんな不思議な感覚に陥ります。
古庄が更のことを「ドライアイスのようだ」と言うのですが、物語もまさにその通りです。
淡々と進みますが、吸引力はすさまじく、読み始めると止まらなくなってしまいまう魅力があります。
こんな人におすすすめ
読者に余白を想像させるような、上質の恋愛物語になっています。
少女マンガはたくさん読んできたから、ある程度読んだら結末まで予想できるというような方でも、思わず唸ってしまう結末になっています。
巻数は多くありませんが、とても読み応えがあります。
小説が好きな方にもおすすめです。
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Post source:禁断の愛なのに静謐な美しさが漂うインヘルノ【感想・あらすじ】